
草薙の朝、死体は母の味噌汁をすすった
クサナギノアサ、シタイハハハノミソシルヲススッタ
戸籍が消しても、母は名前を覚えていた。
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SYNOPSIS
あらすじ
静岡市清水区・草薙。母の味噌汁の前に現れた死体を起点に、二十年前に記録から消された少年の存在が浮かび上がる。
赤い靴、戸籍、死亡届、古い名簿。制度が消した名前を、暮らしの記憶はどこまで守れるのかを追う。
BOOK INFORMATION
作品情報
- 発売状態
- Kindle発売中
- 形式
- Kindle版(電子書籍)
- シリーズ
- 単行作品
- ASIN
B0H56C9GBS
KEY THEMES
主要テーマ
- 01戸籍と死亡届
- 02家族の記憶
- 03静岡・草薙
FOR READERS
この作品がおすすめの読者
- 静岡・草薙を舞台にした地域ミステリーを読みたい方
- 戸籍や死亡届など、制度と家族の記憶が交差する社会派サスペンスが好きな方
OPENING SAMPLE
冒頭試し読み
本書冒頭より(一部抜粋)
静岡市清水区草薙の朝は、いつも少しだけ甘い。
パン屋の排気口から焼けた小麦の匂いがほどけ、静鉄の踏切が遠くで眠そうに鳴り、大学へ急ぐ学生たちの自転車が、まだ水気を含んだ路地を銀の魚みたいに走っていく。南幹線の車列は低く唸り、住宅街の庭先では、鉢植えの紫陽花が、夜の雨を花の奥にしまいこんだまま小さく震えていた。
そんな何でもない朝が、星野灯にとっては救いだった。
事件は、たいてい夜に来る。誰かが誰かを憎み切った時間、酒が人の口をゆるませる時間、怒りが家具の角に足をぶつけたように爆ぜる時間。しかし草薙の朝だけは違った。人はまだ他人を疑う前の顔をしている。湯気の向こうにある食卓が、昨日までの罪をひとまず薄めてくれる。
灯は三十三歳になっても、その朝の匂いだけは子どもの頃と変わらないと思っていた。
母のよし江が営む惣菜屋「よし江のおかず」は、草薙駅から歩いて十分ほどの古い住宅街にあった。店は小さく、看板は傾き、暖簾は日焼けで藍色を失いかけている。それでも朝の卵焼き、夕方のコロッケ、雨の日だけ出す大根の煮物だけは、近所の人たちが律儀に買いに来た。
「灯、今日もちゃんと食べてる?」
その朝も、母はそう言った。
THEME SONG
主題歌ミュージックビデオ
物語の余韻を、映像と音楽でお楽しみください。
ABOUT THIS BOOK
この作品について
日常の食卓と公的記録のあいだに残された、一人の人間の存在を描く作品。